なぜ今、日本語動画に英語字幕が求められるのか
自社の動画に英語字幕を付けたいという声は、業種を問わず増えています。海外の取引先への製品紹介、外国籍の社員が増えた職場での研修、海外ファンが多いアニメやゲーム関連の YouTube チャンネル、観光客向けの施設案内などが代表例です。
英語の吹き替えに比べ、字幕は話し手本人の声や雰囲気をそのまま残せるのが強みです。経営者のメッセージ動画や、職人のインタビューのように「誰が話しているか」が価値になる動画では、字幕のほうが向いていることが多いでしょう。
日本語ならではの「英訳でずれやすい」3つのポイント
日本語を英語にするとき、機械翻訳でも人の翻訳でも、つまずく場所はだいたい決まっています。
まず主語の省略です。「来月から始めます」と言ったとき、日本語では文脈で「弊社が」とわかりますが、英語では主語が必要です。自動翻訳は「We」「I」「It」のどれかを補いますが、それが話し手の意図と合っているとは限りません。社長が会社を代表して話している場面で「I will start next month」と訳されると、個人的な決意表明のように聞こえてしまいます。
次に敬語です。「させていただきます」「おっしゃる」「承知いたしました」といった丁寧さは、英語では単語の選び方や文の組み立てで表すしかなく、そのまま訳すと不自然に回りくどくなるか、逆にそっけなくなります。
最後に、あいまいな言い回しです。「前向きに検討します」「なるべく早めに」は、日本語では含みを持たせる表現ですが、英語にするとはっきりした約束に見えたり、まったく意味が伝わらなかったりします。
元の発言:「本日はお忙しいところお集まりいただき、誠にありがとうございます」/直訳寄り:「Today, thank you very much for gathering despite being busy」/字幕として自然な訳:「Thank you all for joining us today」
字幕では、元の丁寧さを一語ずつ移すより、英語の聞き手が同じ印象を受ける言い方を選ぶことが大切です。文脈が訳に与える影響は機械翻訳と文脈 (英語)でも詳しく扱っています。
収録の段階でできる、英訳しやすい話し方
これから撮影する動画なら、話し方を少し工夫するだけで英語字幕の質が上がります。
- 主語をできるだけ言う。「弊社では」「お客様が」と一言添えるだけで、訳の取り違えが減ります。
- 一文を短く区切る。「〜で、〜ですが、〜なので」と続く長い文は、英語でも長い字幕になります。
- 社内でしか通じない略語を避ける。「ソリューション営業部」を「ソリュ営」と言うと、文字起こしの段階で正しく拾われません。
- 複数人が同時に話さない。座談会形式でも、話し始めるときに少し間を空けてもらいます。
文字起こしの精度に影響する要素はWhisper の文字起こし精度の記事でも解説しています。
mydubly で英語字幕の下書きを作る
mydubly はブラウザ上で動く文字起こし・翻訳アプリです。画面は英語ですが、操作は数ステップです。
- 「Drop a video here」に日本語の動画をドロップします。話されている言語は日本語として自動判定されます(Source: Auto detect)。
- 「Full translation output」はオフのままにして、字幕と文字起こしを作るモード(Timestamped transcript only)にします。
- 「Select language」で English を選びます。
- 「Transcribe video」を押し、処理が終わるまでブラウザのタブを開いておきます。
- 「Download subtitles」で英語の subtitles.srt を、必要なら「Download timestamped transcript」で時刻付きのテキストを保存します。
60分の社内向けウェビナーなら、字幕作成は1分1クレジットで 60 クレジット($0.06)です。10分の会社紹介動画なら 10 クレジット($0.01)。どちらも登録時の無料クレジット 100 の範囲で試せます。
社内の動画を扱う場合に気になるのがデータの扱いです。mydubly では動画ファイル自体はブラウザから出ず、抽出した音声だけが HTTPS で送られ、処理が終わってから30分以内にサーバーから削除されます。ただし、社内規程で外部サービスの利用に承認が必要な場合は、情報システム部門などに確認してください。
できないこともはっきりさせておきます。日本語の字幕と英語の字幕を同時に出す二段字幕、話者名の自動表示、画面のテロップやスライドの翻訳、字幕の焼き付けには対応していません。主語や敬語の調整も自動では行われないので、下書きとして受け取り、次の工程で人が整える前提で使ってください。字幕機能の詳細は字幕生成ツール (英語)のページをご覧ください。
専門用語と固有名詞の対訳表を先に作る
英語字幕の確認作業を楽にするコツは、動画を見始める前に「対訳表」を用意しておくことです。自社の製品名、部署名、業界用語の英語表記を1枚にまとめ、字幕を確認するときに照らし合わせます。
- 稟議
- approval request(社外向けなら説明的に訳す)
- 御社・弊社
- your company / our company(多くの場合 you / we で十分)
- 製品名・ブランド名
- 公式サイトの英語表記に統一する
- 人名
- 姓と名の順番を動画内・会社内でそろえる
- 社内略語
- 字幕では正式名称か、意味が伝わる英語に置き換える
人名の順番は特に揺れやすい部分です。「山田太郎」を「Taro Yamada」とするか「Yamada Taro」とするかは、どちらが正しいというより、会社として統一することが大切です。
英語字幕の読みやすさと、誰が確認するか
英語の字幕は、日本語より横に長くなりがちです。英語字幕では1行40文字前後・2行までを目安にすることが多く、長すぎる字幕は SRT をテキストエディタで開いて改行や分割を加えます。
確認は、できれば英語を母語とする人か、英語で仕事をしている社員に頼みましょう。見るべきポイントは文法の誤りよりも「この字幕を英語圏の人が読んで、意図どおりに受け取るか」です。社内で適任者が見つからない場合の考え方は翻訳のネイティブチェック (英語)にまとめられています。セミナーや講演の動画を海外向けに出す具体例は、セミナー動画の翻訳の記事も参考になります。
公開前の最終チェックリスト
- 主語が話し手の立場と合っているか(I と We の取り違えがないか)。
- 敬語を直訳した不自然な言い回しが残っていないか。
- 製品名・人名・数字が対訳表どおりか。
- 冗談やことわざが、英語圏の視聴者に通じる訳になっているか。
- 字幕が場面転換をまたいで残っていないか、通しで再生して確認したか。
よくある質問
日本語の敬語は英語字幕でどう表現すればいいですか?
英語には敬語の体系がないため、丁寧さは「Thank you for…」「We would like to…」のような言い回しや、ぶっきらぼうな命令形を避けることで表します。一語ずつ移そうとすると回りくどくなるので、英語の聞き手が同じように丁寧だと感じる表現を選ぶのが基本です。
方言や早口の日本語でも英語字幕は作れますか?
mydubly は日本語の音声を自動判定して文字起こししますが、方言の強い話し方や早口、聞き取りにくい録音では誤りが増えます。英訳はその文字起こしを元に行われるため、元の文字起こしの段階で誤りがあると英語字幕にも引き継がれます。重要な発言は元の音声と照らして確認してください。
英語字幕と日本語字幕を同時に表示できますか?
mydubly には二段字幕を作る機能はありません。日本語と英語の SRT をそれぞれ作り、編集ソフトで2つの字幕トラックとして配置すれば、上下に並べて表示することは可能です。YouTube では言語ごとに字幕を登録し、視聴者が切り替える形になります。
社外秘の動画を処理しても大丈夫ですか?
mydubly では動画ファイルはブラウザ内にとどまり、送信されるのは抽出した音声だけで、処理完了から30分以内にサーバーから削除されます。それでも外部サービスに音声を送ることに変わりはないので、社内のルールに従い、必要に応じて情報システム部門や法務に確認してください。
英語字幕ではなく英語の音声にしたほうがいい場合は?
工場の作業手順のように画面から目を離せない動画や、字幕を読むのが負担になる視聴者が多い場合は、英語音声のほうが伝わりやすいことがあります。mydubly では8種類の既成ボイスから選んで英語音声を作れますが、話し手本人の声の再現や口の動きの同期はできません。料金も字幕より高い1分50クレジットになります。
英語字幕の SRT を YouTube に登録するにはどうすればいいですか?
YouTube Studio の字幕メニューで英語を追加し、ファイルのアップロードで「タイミングあり」を選んで SRT を指定します。動画のタイトルと説明文も英語版を登録しておくと、海外の視聴者に見つけてもらいやすくなります。
